やかましいほどの蝉の鳴き声の中に、夕方を思わせるヒグラシの声も混じる。
縁側で外を眺めている左近は、一向に暑さを感じさせないほど、涼しげな顔をしている。
「・・・」
部屋の奥に臥せっている綾女がいた。
格別に暑い日だった。
遮る物のない場所で綾女は戦いすぎ、いわゆる熱中症で倒れたのだった。
風通しのよい部屋で、頭を冷やしながらゆっくりと水分を含む。
動けない綾女に代わって、左近は忍び道具を外し、ややためらいながら綾女の髪をほどいた。
「なにを・・」
「熱を開放するためだ」
赤い顔をした綾女に冷たい手ぬぐいを乗せ、こともなげに左近は言い放つ。
「済まぬな・・」
綾女は失った体力を取り戻すべく、眠りに落ちた。
カナカナカナカナ・・・・
次第にヒグラシの声が増してくる。その寂しげな音色に綾女は眠りから覚めた。
眩しいほどに明るかった外は、すっかり橙色に染まり、その中に左近が佇んでいるのが見えた。
頭はまだ鈍い痛みがあるが、気分はだいぶ良くなっている。
ふと、髪をほどかれたことを思い出し、頭上に手を伸ばす。
「?」
伸ばした腕には、服がまとわりついていない。体には薄手の掛け物がかけてあるが、もう片方の手で体を触ると、どこを触っても肌の感触しかなかった。さらしも下着も着けていない。
「!!」
息を呑むと同時に、左近が振り向いた。
「気がついたか。よく眠っていたぞ。具合はどうだ」
言いながら近づき、綾女の額に手を触れる。左近の大きい手から温もりが感じられ、綾女は瞬時に顔を染める。
「も、もう大丈夫だ・・」
掛け物で体を隠しながら、綾女はそっと後退する。左近は冷たい水を椀に移し、綾女に差し出した。
「水分は摂ったほうがいい」
「あ、ああ。そこに置いてくれ。あとで飲む」
恥ずかしくて、左近には早く出て行ってほしかった。脱がせたのは左近だろう。自分の体を見られたという思いで、綾女は左近と目を合わせられなかった。
「今飲め。寝ていた間、水分を摂っていなかったからな」
綾女は胸元を隠しながら両手でお椀を持ち、水を飲んだ。露になった白い肩から背中にかけて、黒髪が流れている。喉元から流れるラインに左近は目を奪われていた。
「ずいぶんな量だったな」
飲み干して、綾女が左近を見る。唇が濡れて艶やかに染まっていた。
髪を下ろし、掛け物だけの綾女。左近は思わず抱き寄せ、その白い背中を愛撫した。
「や・・!」
両手で左近の胸を押し戻そうとするが掛け物が落ちて肌が露になっただけだった。左近の服がじかに肌に触れ、綾女はくすぐったい感触も覚えていた。首筋に左近の息がかかると、綾女は力が抜けるような感覚に襲われた。
「だめ・・」
かすれた、綾女の声。
夕暮れが濃くなった部屋で、ふたりの影はそのまま重なっていたが、頬を叩くような音がし、左近はゆっくりと体を離した。
「今は体を戻せ」
少し頬を腫らした左近が部屋を出て行くのを、綾女は見送っていた。
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