翌晩。
龍馬は蘭丸とともに冥府魔道に落ち、妖刀のひとつが消えた。
左近は疲れきっていた。大きな外傷はないものの、妖刀の力を出しすぎたのか、体がきしみ、痛む。
「こんなにまで体力を消耗するものなのか」
石垣に身をもたせかけ、呼吸を整えた。そして気がつく。
「綾女!」
心では苦しいほどに綾女を想うが、体がいうことをきかない。鉛のような足をようやく動かし、綾女を探す。
男の自分がこれほどまでに体力を使うのだから、女である綾女はこれ以上のダメージを受けているはずだ。
岩の陰に綾女が倒れているのが見えた。
「綾女!」
やっとの思いで綾女のそばに行く。妖刀をしっかり握り締めたまま、綾女は目を閉じていた。
「綾女、綾女」
何度も声をかけ、体を揺り動かす。体を起こし、抱きしめる。
「ん・・」
綾女がかすかに目を開けた。
「綾女」
「左近・・私・・?」
「やったぞ、もう戦いは終わった」
綾女はかすかに微笑んだ。左近は唇を重ねたが、その冷たさにいやな予感がした。
綾女は逝こうとしている・・わずかに残った命のともし火でさえ、この体から少しずつ流れ出ていく。
「気をしっかりもつんだ、綾女。約束しただろう、夫婦になると」
綾女は左近をじっと見つめていた。まぶたが閉じそうになるが、それでも懸命に左近を見つめていた。
「左近、ありがとう・・好きよ・・」
とうとう綾女のまぶたが閉じられ、涙が一筋伝った。
それきり・・・。
綾女の瞳はもう開けられることはなく、唇は左近の名を呼ぶことはなくなった。左近は綾女を抱きしめ、号泣していた。
この世でただひとり、心の底から愛した女性。
素直で優しいけれど、強情で正義感に溢れた、そんな女性がいた。
彼女は戦いの中で生き、戦いの中でその命を散らせていった。
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