伊賀の里にて。
左近はある人物から相談を受けていた。
「わしは、恋をしてしまった」
大男の龍馬が顔を赤らめて告白する。左近はあまりの展開に表情を作れず、無表情で龍馬を見つめた。
なぜ俺に相談するのだろう・・?
「左近、恋する気持ちってわかるか?」
「あ?」
「恋ってのはなぁ…胸がキュンとして、切なく痛むんだ。姿を見ただけで嬉しいし、話ができると飛び上がりそうになる。笑顔なんて見たら、頭がくらくらするんだ」
はぁ、と切ないため息をついて龍馬がうっとりと左近を見る。
もう龍馬が見ているのは左近ではない、恋する相手の姿だ。
左近にはそういう経験はない。
自分が好意を持たなくても、いくらでも言いよられた。中には人妻もいた。そのうちのわずかを除いては、一時的であるにせよ関係も持った。
「で、相手は?」
「佳代殿だ」
「人妻じゃないか」
龍馬の顔色が少し変わった。
「そうなんだ…わかっている。わかってはいるが、もうこの気持ちは戻れん…。だから、伝えないでおくんだ。わしの心の中で大事にしておく」
龍馬の顔が真剣な面持ちになる。
「お前はどうだ、左近。男だと偽っていても、綾之介は女子だ。お前は綾之介に恋しているな?」
左近は不意を突かれて目を白黒させてしまった。
「見ていればわかる。恋する男は敏感だ。いつも綾之介を目で追って、自分の目の届くところに置いている。違うか?」
「そ、それは、あいつが危なっかしいから…」
龍馬の顔がずい、と近づいた。左近は思わず顔をそむけそうになったが、気を取り直した。
「そうだ。俺はあいつが好きだ。あいつがそばにいると癒されるし、抱きしめたくなる。龍馬殿はごまかせないな」
うんうん、と龍馬が頷いた。
「わしの恋は実らん。だからお前たちの恋を見守りたいんだ。じきに綾之介が帰ってくるから、この部屋でゆっくり話をするんだ」
龍馬は別室で、綾女に同じ話をしていた。
「左近はお前さんが好きだ。今まで男として辛いこともたくさんあっただろう。だが、お前さんがいると癒されるんだそうだ」
「私が、癒す・・?」
「そばにいるだけでいい。強く見えても、あいつはそういうところが弱い」
綾女はどきんとした。その表情を龍馬は見逃さなかった。
「あそこの部屋に左近がいる。帰ってきた報告をしてやれ・・」
ぎくしゃくとした雰囲気の中、綾女と左近が座っている。
「今、北の方を見てきた…。変わりはなかった」
「そうか」
話が途切れてしまう。左近の熱い視線が綾女の頬を赤くする。
「何だ、左近…今日は変だぞ」
綾女が少し笑う。そのかわいらしさに左近は参ってしまう。
「俺は、お前が好きだ」
急な告白に、綾女は驚いて左近を見た。左近が近寄り、綾女の頬に手を当てる。綾女は頬の熱さが左近に知られてしまうと思い、動けなかった。
「名を・・教えてくれ。本当の名は何と言うんだ?」
「あ・・・」
綾女は目を閉じた。封印していた名前。願いを果たすまで閉じ込めていた名前。
「綾女…香澄の、綾女」
「綾女か。良い名だ」
左近の手が頬から顎に滑っていき、くい、と持ちあげる。
「綾女」
吐息が唇に触れたと思ったとたん、熱いものが重なった。綾女は胸の動悸が早くなるのを感じた。初めての、口づけ。
ずいぶん長い間左近は唇を重ねていた。やっと離れると、綾女は肩で息をした。
「い、いきなり、何を、する…」
「俺は本当に自分が好きな相手にしか口づけをしない。綾女が好きだ」
左近は嬉しそうに綾女を抱きしめた。
「でも、私は…?私の気持ちは…?」
一応左近の初恋は実ったが、綾女はどうだったのか…。
○○は、黙して語らず。←好きな言葉を入れてください。
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