大きな麦藁帽子をかぶった綾女が左近を振り返る。
「早くー、こっちよー」
大きく手を振る姿は愛らしいが、そのまわりはよくない。
安土の花見をしたメンバーで、今度は海に来ている。そう、妖刀伝オールキャスト。
左近が妹綾女によからぬことをしないよう、進之助がしっかり見張っている。
「やりにくいな・・、もう」
左近はそっとため息をついた。
「ねーねー、ビーチバレーしようよ」
香我美が持参のボールを出した。全員が一気に引き、香我美は口を尖らせる。
「普通のビーチボールだってば。失礼しちゃうわ」
ビーチパラソルの下では、女性たちが日焼け止めクリームを塗っている。
「あ、背中塗るわよ」
「ありがとう」
綾女の背中に佳代がクリームを塗っていく。佳代の背中は桔梗、桔梗の背中は香我美、綾女は香我美の背中を塗った。
「さぁこれでいいわね」
女性対男性で始めたが、女性はすぐに日焼け止めクリームを塗りなおすためやめてしまった。
左近と進之助は火花を散らせながら試合を続けている。
「綾女とどこまでいったんだ」
「そんなこと言うわけないだろう」
「まさかもう体まで・・」
「へへん」
「こやつめっ責任取れっ」
「義兄上」
「それを言うとは、貴様・・」
「もうやめなさいよ。熱中症で倒れるわ」
綾女が中に入ってふたりを止めた。日焼けと怒りで進之助は真っ赤だ。目も血走っている。対して左近は涼やかな顔である。汗ひとつかいていない。
「兄さん、大丈夫?」
綾女が冷たいタオルと飲み物を持ってくると、進之助の表情が和らいだ。
「ああ、すまないな・・。年甲斐もなく左近とやりあってしまった」
「もう・・」
「だけどな、左近には絶対言いたくないが、本心を言えば俺は認めているんだ。お前を見ていればわかる」
「え、そうなの?」
「ああ」
兄らしい優しい瞳で、進之助は綾女を見ていた。
「綾女、幸せになるんだぞ」
「うん」
綾女の微笑みは、幸せな微笑みになっていた。
黄金色の砂浜を、ワンピース姿の綾女が歩いている。少し先には左近が歩いていた。
「夕焼け、きれいね。明日も晴れるわね」
海を見て綾女が立ち止まった。風が髪を乱すのを手で押さえている。左近がそっと風上に立ち、風をさえぎった。
「ありがとう」
綾女は左近の胸にコツンと頭を乗せた。その肩を左近の手が抱く。そして風に流れる黒髪を指でいじる。
「いつもそうして、髪を触るわね」
綾女がいると、左近は必ず髪を撫でたり触ったりする。絹のようにきらめく漆黒の髪は、左近の指からサラサラと流れる。背中まで伸ばしているのも左近の好みだからだ。
「触ると気持ちがいいからな。それに」
綾女の耳元で囁く。
「シーツの上に広がる髪が一番好きだ」
綾女は一瞬遅れて赤くなった。恥じらいながら上目遣いで左近を見上げる。左近の腕に力がこもった。
太陽が最後の光を投げかけ、ふたりを照らす。その光の中で唇を重ねあうふたりだった。
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