しんと冷え込む夜。
私はあまりの静けさに身を起こした。障子がほの明るい。
布団の温もりを逃さないようにしっかり布団をかけてから、そっと障子を開ける。
「あ」
雪が舞い、一面の銀世界に変わっている。雪明かりに木々の影が浮き上がっている。
あの時、雪の中を男に会いに行った。
説得しようと訪れたつもりが、唇を奪われ、否応にも自分が女だと思い知らされた。
あの男の瞳は私をひとりの女として、確かに見ていた。
あの時の唇をまだ、私は覚えている。
寒さではなく、不意に身体が震えて私は両肩を抱いた。
雪を見るたびに想いが少しずつ膨らみ、時々抑えきれないくらいになってしまう。男の名を叫びたくなる。
抑えきれずに噛み締めた唇から嗚咽が漏れる。
「だめ・・だ・・」
頬を涙が伝い、私は肩を抱く手に力をこめた。
こんなにも会いたいのに。
今なら、今の私ならあなたの想いを受け止められるのに。
どのくらいそうしていただろう。
身体は冷え切ってしまい、手もすっかり冷たくなっていた。唇だけが熱を帯びていた。
優しく重ねられた唇。
あの時と同じ、不意に奪われた。
「こんなに冷えて」
私は何も言うことができずに、男の温かい胸に身体を摺り寄せた。
あの時の雪、そして今日の雪。
私は忘れない。
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