春の陽射しが差し込む喫茶店。
綾女はすでに何回目かのため息をついた。
「どうしたのよ、朝から元気ないわね。今日はお休みでしょ?」
佳代が綾女専用のカップにコーヒーを注ぎ、前に置いた。
「うん・・・。なんかね・・・最近、わかんなくなっちゃったの」
言いながらまた綾女はため息をついた。心なしかいつもより疲れている顔だ。
「何が、わかんなくなったの?」
「左近の、気持ち」
左近との付き合いは、430年ほどになるだろうか。
もちろんこの年数は記憶のみの年数であり、今世では20年余り。再会した時、一瞬にして恋に落ちた・・・と思った。
今でも思い出す。
「綾女か?」
「え・・左近?」
あの時と変わらない姿。綾女の中に熱い想いが満ちてきた。次の瞬間には抱き合い、互いの温もりを感じていた。
左近と結ばれたのはそれから数日もしないうちだった。
「でも綾女さん、今幸せそうな顔をしているわよ」
うっとりと過去の余韻に浸っていた綾女は慌てたように佳代のほうを見た。
「そ、そう見える?でも違うわ」
「何が」
恥ずかしそうに綾女は頬を染めた。
「確かに、毎晩左近は私を・・・求めるけど・・・気持ちはどうなのか、わからないの。もしかして体だけなのかな、とも思うのよ」
自信なさげに綾女は目を伏せる。
同性の佳代でさえもしばしばドキッとさせられる、綾女の仕草。左近に心底愛されているのが傍目にはよくわかる。
「綾女さんは謙虚すぎなのよ。誰が見ても左近さんは綾女さんのことを愛しているわよ」
「そうかなぁ・・・」
翌朝。
さらにきれいになった綾女が左近と店に来た。首にはスカーフ。
「おはよう。佳代さん、昨日はありがとう」
「いいえ、どういたしまして。すごく愛されちゃったみたいね」
スカーフの影に覗く紅い徴。白い肌はさらにきめ細かになっている。甘い香りがほんのり残り香になって漂う。
「杞憂だったみたいなの・・・もう恥ずかしいわね、私ったら」
「綾女」
甘い左近の声。その瞳はいとおしげに綾女をとらえて離さない。そばで見ているほうが恥ずかしかった。
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