開け放たれた部屋。
ひとりの少女が眠っている。
蚊遣りの煙が静かに立ち上り、時々思い出したように動く団扇からの風で、揺れる。
吊られた蚊帳の中に布団を敷き、綾女は快適に眠っていた。
ひそかに気配が乱れる。
ひとりの男が、蚊帳の外から綾女の寝顔を見つめている。
目覚めている時は男として気負っている少女が、こうして寝ていると、本来の静かな寝顔になる。
気負いも何もない、愛らしい寝顔。
そっと蚊帳の中に身を滑り込ませ、左近は間近で再度寝顔を見つめた。
左近は綾女の頬にそっと触れた。
「ん・・」
かすかに声が漏れ、綾女はゆっくり瞼を上げる。
目の前には左近の整った顔。完全に覚醒していない綾女は、ぼんやりときれいな顔だな、と思って見ていた。
やがてその瞼は閉じられ、また静かな寝息が聞こえてきた。
左近はさらに近づき、その柔らかな頬にそっと唇を押し当てた。
いつまでもこのあどけない寝顔を守りたい。
その願いを胸に、左近は蚊帳から出た。
部屋から出るとき、再度左近は綾女を振り返る。
先ほどと変わらぬ姿で眠り続ける綾女。
またひとつ、愛おしさが増す左近であった。
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