サクサク、サクサク
積もった雪の上を、左近は歩いていた。
すっかり夜中になってしまった。
何度か自宅から携帯に電話があったが、出ることもできないまま途切れた。
「ふう・・」
吐く息も白い。バスが終わってしまったからには、歩いて家まで帰らなければならない。幹線道路を右に折れ、川沿いを少し進んで住宅街に入る道筋だ。
「もう寝ているのかな」
時計を見るとすでに日付は変わっていた。
川に出ると、寒風が左近を襲う。体温が見る見るうちに奪われていく。
「くそっ」
やっとのことで住宅街に入り、風をよけることができた。
住宅街を5分ほど進むと我が家だ。小さな家だが、愛する人と新しい生活を始めたばかりの左近には申し分ない家だった。
角を曲がると家の明かりが見えた。自然と左近の歩みが速くなる。
「もしかしたら明かりだけつけて寝ているかもしれないな」
そう思い、静かに鍵を開けようとするとドアが開いた。
「お帰りなさい。寒かったでしょう」
やさしい声とともにタオルが頭にかぶせられた。
「ただいま」
左近は笑おうとしたが、顔が凍っているようでうまく笑えなかった。
「お風呂であったまってきて」
「ああ」
愛する人・・綾女。
何度もすれ違い、やっと現世で結ばれることができた、最愛の人。
綾女は左近のコートを脱がせ、ハンガーにかけた。
「ふう〜、生き返る」
かじかんだ身体を、お湯がゆっくりほぐしていく。全身を血液が回り始める。
コンコン
お風呂場のドアを綾女がノックした。曇りガラス越しに、バスタオル姿であることがわかる。
「あの、一緒にあったまっていい?」
「あ、ああ・・」
恥ずかしそうに左近をチラッと見て入ってくる。バスタオルをタオル掛けにかけて、左近に背中を向けながら浴槽に入ってくる。
「冷えたのか?」
「うん・・ちょっとね」
左近は自分の足の間に綾女を抱き寄せた。確かに肩や背中が冷えている。帰りの遅い左近を気遣い、リビングと玄関を何度も往復したせいだろう。
「いつも恥ずかしがって一緒に入らないのに?」
「だって、左近のあとに入ったら、ご飯を待たせちゃうでしょ?」
左近はくすっと笑った。温めぐらいなら俺にもできるんだがな。
「お風呂っていいね、あったまって生き返るね」
「綾女が準備してくれていたおかげで、助かったよ。ありがとう」
左近は綾女を抱き寄せ、うなじにキスをした。ピクンと反応する綾女。
「あ、もうあったまったから出るね」
左近の手がいたずらをしないうちに綾女は逃げるように出て行った。左近も十分温まり、綾女お手製の熱々のグラタンを食べた。
そして温かい綾女を堪能したことは、言うまでもない。
- テーマ
- 32 view
この記事へのコメントはありません。