「何よ、もう」
少しふくれっつらをした綾女。夕暮れの海岸で波と戯れている。
「左近も一緒にどう?」
綾女のすくった水が俺にかかり、俺はよろける。
「何をするんだ」
「だって一緒に遊んでくれないんだもん」
画像が切れた。ノイズが画面いっぱいに広がる。
たった数秒の映像。何度も繰り返し見た。隣にあるはずのぬくもりは、その画像のあと、遠いところに旅立っていってしまった。
「左近?眠れないの?」
初めて出会った頃の綾女に似た少女が声をかけてきた。
この少女の父、進之助はすでにない。
「ああ、時々あることだ。心配は要らないよ」
少女、朝香は左近の隣に座った。
「時々、左近は綾女姉さんを見ているよね。私少しだけ覚えているよ」
「そうか?」
「とてもね・・やさしくて、きれいな人だったの。強くてね」
朝香の瞳が綾女を思い起こさせる。
綾女が亡くなってからすでに10年たつ。
「お前がこんなに大きくなるんだもんな。俺もおじさんだな」
朝香が綾女と重なるように見えて、左近は目をそらした。
「私じゃ・・代わりになれない?」
少しの沈黙の後、朝香が聞いた。左近は朝香を見た。大きくなるにつれ、綾女にそっくりになっていく朝香。けれど綾女はもういないのだ。
「代わりも何も・・誰も綾女の代わりはいないよ」
そうなのだ、と左近は自分に言い聞かせる。そうしないといつか綾女と重ねて朝香を苦しませることになるからだ。
「そう・・だよね・・。ごめんね、変なこと言って。おやすみなさい」
朝香は左近が好きだった。だが左近は今でも深く綾女を愛している。
朝香は失恋の涙を一筋、頬に光らせていた。
もう一度左近は映像を見た。見納めのように真剣な眼差し。そして見終わるとそれを封印するかのようにしまいこんだ。
そこには中身のない指輪ケースも入っている。中身は生前の綾女の指にはめられることがなく、お別れの時に最後の口付けとともに左近がはめた。
あの海の帰りに渡そうと思っていた指輪。
左近はしばし思いを馳せていたが、引き出しにしまい、鍵をかけた。
やがて左近に眠りが訪れる。深い眠りの淵に左近はゆっくりと意識を沈ませていった。
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こんにちわ、おりぼんです。
お忙しい中での創作活動、本当にお疲れ様です。
これからも、無理せずに書いていってください。
しかしこのお話し、切ないですよねぇ・・・そこがいいんですけど。
そして「左近って、こーゆー事やりそう」と思えるあたりが、またなんとも切ないです。
でも、このお話し好きです。
お気遣い、ありがとうございます。
なんとなく、ポンと浮かんできたイメージを基に書いてみました。
切ないですよね。夜には書けないお話だと思います・・・泣いてしまいそうで。
私が左近だったらこういうことをしていそうです。