秋。
都内某所の日本庭園。
俺は正門前で彼女と待ち合わせをしていた。場所柄か、着物姿のご婦人方が団体でやってくる。
「お待たせ」
現れた女性は待ちに待った彼女。瞳をキラキラさせ、長い髪はそのまま下ろし、コートを着ている。
「日陰はちょっと寒いね」
俺は黙って彼女の手を握った。さっと赤くなる頬。初めてではないのにな。
「行こうか」
「うん」
手を繋ぎ、中に入る。さほど混んではいないが、そこここに人の姿はある。すでに数本、葉が色づいており、中には鮮やかな赤に染まっている木もある。
「きれい・・」
見上げて彼女が呟く。
「お前の方がきれいだよ、綾女」
「もー、また左近たら」
俺は綾女を抱き寄せた。コートに包まれているが、柔らかい体が触れる。人目がなくなった隙に唇を奪うと、綾女の瞳が潤んだ。
庭園をゆっくり歩いていくと、池の中に小さなアーチ状の島がある。
「ねぇ、あれ蓬莱島だって」
「蓬莱・・・」
この言葉、忘れるものか。初めて綾女の唇を知り、恋に落ちたのだ。不幸にして死に別れてしまったが、現世で再び合間見えることができた。その時の喜びは計り知れないほど大きかった。
「左近?どうしたの?」
綾女が俺を覗き込んでいる。そうだ、綾女には現世での記憶しかないのだった。それでも時々には俺の経験したことを話し、綾女は物語風に聞いていた。
「あの蓬莱という名がつく洞窟で、俺はお前に初めてキスをしたんだ」
「そうなの?」
「ああ、飛騨にそれはあって、吹雪の中お前が俺に会いに来て、色々説教を垂れたんだな。それで俺はこうして」
再び綾女の唇を味わう。柔らかく、温かく、俺を包み込む。
「わかったから、実演はしなくていいから・・・人が来ちゃう」
綾女が俺を軽く押し戻す。その仕草がかわいくて、俺は目を細めた。
「まぁ、そういうことがあったんだ」
すでに綾女の頬は上気しており、瞳も潤んでいる。おそらく心拍数もいつもの倍くらいにはなっているだろう。この状態じゃ、今ポケットに入っているものを渡したら卒倒するんじゃないだろうか・・・。
日が落ち、ライトアップされた紅葉をふたりで見つめていた。吐く息は白くなり、体もだんだん冷えてきている。
「綾女」
「なぁに?」
俺は黙ってポケットから小さい箱を取り出した。蓋を開けるとライトに輝く小さなダイヤモンドの指輪があった。俺はそれをゆっくり綾女の指にはめ、瞳を見つめた。
「俺たちの恋を、成就させよう」
「左近・・・」
綾女はゆっくりと俺に体を預けた。細い腕が俺の背中に回る。温かい綾女の体を、俺はしっかりと抱きしめ、目の前の蓬莱島を見た。
蓬莱洞で始まった恋は、蓬莱島で成就した。
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こんにちわ、おりぼんです。
うふふ…そっかぁ、あのオフ会の時、こんなことを妄想していたのかと(笑
そう思うと、また違った楽しみがありました。
「蓬莱」つながりで甘い二人を描いてみました。
いいなぁ、こういうシチュエーション。
他にも蓬莱ないかな〜〜。