明け方。
やっと綾女は左近から解放された。久しぶりだったせいか、愛されることがこんなに気持ちのいいものだと知った。身体の隅々まで愛された綾女は艶やかで、いっそう美しくなった。
「綺麗だ・・また抱きたい」
「うん・・・」
思いを遂げた左近も男らしさが増していた。
束の間の朝寝。
やがて綾女は着替え、出勤して行った。
それを見送ると、左近は掃除機をかけ、洗濯をし始める。シーツには、夕べの名残がしっかりと残っており、それが激しかったことを物語っていた。左近は苦笑した。新しいシーツに換え、整えた。
「さて、書くか」
綾女がいるとどうしてもちょっかいを出したくなる。困った顔も怒った顔も、どうしようもなく愛おしい。ただ泣き顔だけは、苦しくなってしまう。
左近の前では涙を見せなかった綾女。それでもあの伊賀での別れの時、綾女の本名を聞いたとき、泣きそうな顔をした。
あの時から左近の心には綾女がいるようになったんだ、と今では思う。
左近は窓から安土山を眺めた。書き始めるときの儀式のようなものだ。やがて筆を走らせ始めた。
「綾女」
蘭丸が綾女を呼ぶ。
「はい」
「昨日頼んだ記事、今日中に書き上げろよ。タイムリミットは夕方の5時。俺は帰るからな」
「は・・い」
綾女は企画書を手に取り、青ざめた。とても夕方まで間に合うような内容ではない。それでも綾女は電話片手にキーボードを叩き、おにぎりをかじりながら車を走らせ取材に出かけていった。
午後4時。取材から帰ると一心不乱にキーボードを叩いてレイアウトを作り、トリミングを自分で行い、5時5分前に蘭丸に提出した。
「できました」
蘭丸は目を通したが、黙って綾女に返した。
「ダメ・・ですか」
「すぐに入稿しろ。OKだ。俺は帰る。お疲れ様」
「はい。お疲れ様でした」
綾女はほっとして封筒に入れ、バイク便に預けた。これで自分も帰れる。久しぶりに充実した仕事ができたと思った。
- 時を超えた絆
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