鬱陶しい梅雨の時期だが、たまたま梅雨の中休みなのか、ふと空を見上げると星が光り輝いている。
「ああ、そういえば七夕だったな・・」
香澄の里で聞いた話。ほんの数年前のことなのに、よく思い出せない。
確か、思いを寄せ合っていた恋人が、年に一度だけ会える日だと、何となく思い出した。
左近を失ってまだ半月。綾女の心はまだその思いに引きずられる。
芽生えた淡い思いはいつ消えるとも、燃え上がることもなく、静かに佇んでいる。
「年に一度とはいえ、お主らは会えるのだな」
星に向かって呟く。そして目元が緩んだ。その表情は恋する顔。もう何年も表れなかった表情。
不意に強い力で抱き寄せられる。
「そんな顔をするなんて知らなかったぞ」
懐かしい、低い声。
「左近か?」
顔を見たいのに、周りが暗い。だが左近であることが全身から伝わってくる。
「左近・・」
自分でも信じられないほど、優しい声で綾女は男の名を呼ぶ。男は黙って抱きしめる。
暖かい。綾女は頬をすり寄せ、甘えた。
目を開けることができた。
岩にもたれている。夜は明けつつあり、朝露が綾女の衣服と髪を湿らせていた。
「あ・・夢・・」
肩に触れられた感触が残っている気がした。
実際に左近はこの世の姿を借りて、綾女と束の間の逢瀬をしたのかもしれない。
綾女の心いっぱいに温かな気持ちが生まれていた。
気持ちのよい風が吹き、綾女の髪を揺らす。
「ここにいるんだな、左近。私は大丈夫だ」
そっと胸を押さえ、綾女が呟く。その表情は晴れ晴れとしていた。
その後、その影忍の姿を見たものはいない。
- あの時代
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