龍馬と左近。
「龍馬。俺は前世の記憶が蘇った」
「本当か?」
「すべてな。特に驚きもしなかったが」
「お前らしいな」
左近は経緯を話した。
「綾女のこと、好きなんだろう?」
左近は黙っていた。
「お前のひねくれた性格は昔と変わらないな。気のない振りをしてそのくせ心は燃えている。今だってそうだ。会いに行ってこい」
龍馬に部屋を追い出された。
「まったく、お節介なところは昔と変わらない」
左近は外にいた。
遠くに琵琶湖の影が黒く見える。
「会えって言われてもな。向こうは記憶がないんだよな」
夜風が頬に当たる。それと同時にかすかに甘い匂いがした。
・・綾女の匂いだ・・
「左近さん?」
綾女が声をかけてきた。
「ああ、君か」
ぴったりとしたシャツにサブリナパンツをはき、足元はサンダル。綾女は左近に笑いかけた。
「綾女、でいいですよ。みんなにそう呼ばれているので」
「わかったよ、綾女」
左近から呼ばれて綾女は恥ずかしげに目を伏せた。
「じゃあ、俺のことは左近でいいよ」
「え、年上なのにいいんですか?」
綾女のきらきらした目が左近を見つめる。
・・なんだろう、この気持ち。左近を見ていると切なくなる・・
「左近」
呼ぶと切なさが増し、涙がこぼれそうになってあわててそっぽを向いた。
「えへへ、呼ぶと照れちゃいますよね」
左近は綾女のわずかな変化を見逃さなかった。それでも気づかない振りをした。
「綾女は高校生?」
「はい、2年。17歳です。左近は大学生かしら」
「そう。今21。3年だよ」
綾女は辺りを見回した。
「何?」
「私、昔から目がいいんですけど。今日は不思議。夜の景色もよく見えるんです。月とか、明かりじゃないけど。だからさっき左近を見つけられたんだわ」
「俺もそうだよ。綾女の顔もはっきり見える」
「嘘。こんなに暗いのに」
「嘘じゃない、ほら」
綾女はどきどきしていた。左近の大きい手が綾女の頬を触る。綾女はびくっとした。
・・ああ、まずい・・
左近は苦笑した。前から綾女はこうだった。忍びは夜目がきく。今の綾女にも少しずつ変化が現れている。
「左近・・」
綾女の手がそっと頬を触れている左近の手に重ねられた。
「ごめんなさい、もう遅いので寝ます。明日もよろしくお願いします」
すっと左近のそばをすり抜け、宿舎に戻っていった。
- 現代版
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