安土は雪がよく降る。
西の湖からの風も身体を凍えさせる。
朝はそれほどでもなかったが、昼過ぎから風が出てきて、あちこちに吹き溜まりを作りはじめた。
「寒・・・」
綾女は安土山を横目に見ながら車で通り過ぎた。だんだんと強くなる雪を憂いで、早めに買い物に出たのだった。
スーパーは割と混んでいた。顔なじみのおばさんたちに愛想よく返事をしながら、かごに野菜を入れていった。
「今日は、鍋ね・・・。きっと週明けまで雪が続くわね。ちょっと多めに買っていこう」
トランクに食材を詰めたが、綾女はふと思いついて店内に戻った。
買ったのは毛糸。今、編みかけのものに使うため。綾女は幸せそうに毛糸の袋を抱きしめた。
駐車場を出ると、さらに風雪は強くなっていた。安土山も雪でかすんでいる。
まだ午後3時前だというのに、すでに空は暗くなりかけていた。
我が家に着き、雪まみれになりながら荷物を運んだ。小さい一戸建てだが、綾女には申し分ない家。玄関灯を点けると、ふんわりと柔らかい雰囲気になった。
「さむーい」
言いながら綾女はお風呂場の準備をする。アロマの入浴剤をどれにしようか少し考え、癒し効果のあるラベンダーを用意した。玄関にタオルを置く。食材を冷蔵庫にしまい、鍋の準備を始めた。
ひと段落すると、電話が入った。
「はい」
「俺。これから帰るよ」
「雪、大丈夫?迎えに行こうか?」
「いや、大丈夫。それより、帰ったら風呂に入りたい」
「わかったわ。気をつけてね」
電話の向こうで風の音が聞こえた。
綾女はすぐにお風呂のスイッチを入れ、お米をとぎはじめた。
午後5時半。外はもう真っ暗だ。玄関の鍵を開ける音がし、綾女が出迎えにいくと、長身の男がタオルを使い、雪を払っている。綾女の姿にふと視線を向ける。いつ見ても綾女はドキドキしてしまう。
「おかえりなさい」
「ただいま」
綾女の頬に触れた唇は冷え切っていた。コートをハンガーにかけ、男は綾女の腕をつかんだ。
「風呂はいるぞ」
「え?あ、ええっ?」
綾女は男に脱衣所へ連れ込まれた。
数分後・・・。
バスタブに浸かるふたり。
「あー、あったまるなぁ」
すっかりくつろいだ男。綾女は恥ずかしげにバスタブから出て身体を洗い始めた。泡が身体を包んでいく。その様子を男はじっと見ていた。
「な、なによ・・」
男の視線に綾女は軽く睨む。上気した頬が愛らしい。
「そんなに恥ずかしくもないだろう?同じ姿でもっと恥ずかしいことをしているんだけどな」
「ばか!」
綾女は真っ赤になった。それはそれ、これはこれ。やっとその行為を受け入れられるようになってきたばかりなのに、明るいところではまだ慣れなかった。綾女は泡を洗い流し、軽く上がり湯をかけてお風呂から出た。
「もう!あんな恥ずかしいことを真顔で言うんだから」
残された男は肩を震わせ、クックと笑っていた。
男がお風呂からあがると、コタツの上で暖かい鍋がぐつぐつと煮えていた。
「食べよう」
綾女がにっこりと微笑む。愛おしくて男は綾女の唇を奪った。
「だめよ、左近・・」
男の名を呼ぶと、綾女はゆっくり押し戻した。
「綾女を、食べたい」
耳元で囁かれ、綾女は真っ赤になった。
綾女の手料理を左近はたいらげ、幸せな気分になっていた。
「そうだ、左近、これ使って」
綾女が差し出したのは、SAKONと刺繍された手編みのマフラーだった。
「これからもっと寒くなるから。私もおそろいで編んだの」
AYAMEと同じ色で刺繍されている。
左近は綾女を抱きしめた。
それから。
左近は綾女の、綾女は左近の温もりを求めた。それは朝方まで繰り返された。
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